平家物語は全13巻だが、191段目の建礼門院の死亡の章でその幕を閉じる。
彼女は阿弥陀仏に繋がる五色の糸を持ち、「阿弥陀如来、極楽浄土へお引き取り下さい」と、念仏を唱えながら亡くなった。
そのとき、西に紫雲がたなびき、良い香りがし、音楽が鳴り響いたという。
傍らにいた阿波の内侍はこれが悲しさに泣き叫んだという。
その心には、自分が仕えていた人を喪しなったという悲しみがあったであろう。
ただ、心が落ち着いた後だが、きっと、できることはしたという思いもあったに違いない。
さて、大原の里を歩いている私に戻るが、寂光寺の近くまで来たとき、前方に黄葉している木があることに気づいた。
まっすぐそちらの方に歩いて行った。
おかげで、寂光寺の門前にも気づかずに通り過ぎた。
何の木かはわからないが、川の側に生えており、薄暗くなった中でその黄色が鮮やかだった。
そこから、更に山の方を歩いてみようかと思ったが、もう周りは薄暗くなってきた。
両側の家も途絶え、アスファルトもない山道になった。
それ以上は行かずに引き返した。
更にもう少し山に入れば、阿波の墓があるらしい。
建礼門院に仕えた他の侍女たちの墓も。
なぜ、寂光寺の中にないのだろうか。
寺に祀れない事情でもあったのだろうか。
あるいは墓のないのを哀れに思って、大原の里人が作ったものであろうか。