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レイシャル・プロファイリング

1 レイシャルプロファイリングとは何か?

この言葉をご存じだろうか。

人種、国籍、宗教等を理由として、国家機関がその者を取り締まりの対象にしたり、取り締まりの対象とするために名簿を作成したりして、把握しようとする一連の行為をいうことである。

日本においては、主に、外国人に対する警察官の職務質問という形で、この問題が提起されている。

職務質問とは、警察官職務執行法第2条に規定された警察官の権限である。

条文では、「警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者」等を「停止させて質問をすることができる」と規定している。

この、「停止させて質問をすることができる」というのが職務質問のことである。

したがって、職務質問をするためには、「異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由」、いわゆる「不審事由」が存在していることが要件となる。

しかし、外国人に対しては、この「不審事由」がなくても、職務質問をしているのではないか、または、人種、国籍、宗教等が「不審事由」として扱われ、職務質問が行われているのではないかという、懸念である。

この懸念を表明したのは、アメリカ大使館である。

アメリカ大使館が、日本に在住する自国民に対して、日本において、このような職務質問が行われていることを、注意喚起したようである(レイシャル・プロファイリングについては、国会質疑でも取り上げられ、国家公安委員長は正式に調査を実施すると発表していた。)。

 

2 日本において、レイシャル・プロファイリングが存在するのか?

さて、実際に、このような日本版レイシャル・プロファイリングが行われているのだろうか。

海外にルーツがある2000人余りに対して、東京弁護士会が実施した調査(26a6af6c6f033511cccf887e39fb794e_2.pdf (toben.or.jp))では、過去5年以内に6回以上の職務質問を受けたと回答した人の割合が2割を超え、過去5年以内に職務質問を受けた人の7割以上が、「外国人である又は外国にルーツを持つ人であること」以外に、警察官から声を掛けられる理由はなかったと認識しているようである。

警察官から職務質問を5年間に6回以上も受けるというのは、多くの日本人の肌感覚とは、大きく違うのではないだろうか。もっとも、このような回答の傾向は、留学生の肌感覚には近いようである。

留学生に日本語教育をしている私の妻にこの話をしたところ、授業中にこの話題で一度盛り上がったことがあるようだ。ある日本育ちのバングラディッシュにルーツを持つ学生は、年に何回か警察官から職務質問をされ、とても嫌な思いをしていると話したところ、同じような体験をしている留学生が多く見られたという。

 

3 外国人が職務質問を受けることが多い理由として考えられること

日本版レイシャル・プロファイリングが存在するかどうかはともかく、外国人が職務質問を受けることが多いとすれば、その理由は、どのような原因に基づくのであろうか。

そこには、厳しすぎる日本の在留制度に原因があるのではないだろうか。

例えば、留学生については、アルバイトをしている学生が少なくない。特に、日本語学校の学生のほとんどは奨学金がないのでアルバイトをせざるを得ない。しかし、留学生が日本でアルバイトをするためには資格外活動許可を取得しなければならず、これを取得せずにアルバイトをすると、罰則がある。

また、多くの外国人は「在留カード」という身分証明書を常に携帯しなければならず、在留カードを携帯していないと、罰則がある。また、これを提示しないと罰則がある。

このように、資格外許可を得ていなかったり、あるいは得ていたとしてもその時間制限を超えて就労していたり、身分証明書を携帯していなかったり、という行為の一つ一つに罰則が設けられているのである。

実際に、警察官が外国人に声をかけるときに「在留カード」を提示させることがほとんどであろう。これを断れば犯罪になってしまうのだから、外国人であることそれ自体が、警察官としては停止させて質問する理由になりかねない。

これら一つ一つの行為に、犯罪としての罰則が必要なのか、それとも行政上の処分で足りるのではないか、ということを最後に提起しておきたい。

 

(弁護士 岡本英樹)

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