
その人は不幸な人生を歩んだのだと思う。
医者の愛人だったが、その彼が破産した。
保証人になっていたことから、彼女は莫大な借金を負うことになった。
医者が元気な時は、兵庫県にある実家に帰っても大事にされたが、
彼が破産した後は厄介者扱いにされたという。
家も人手に渡ることになったので、庭に生えていた花を一株もらった。
寒さの厳しい冬に咲く、明るい肌色のきれいな花である。
花をもらってから10年ほど後だろうか、彼女から電話がかかってきた。
《私、おかしいんです・・》という。
別に話をしている限度では、どこもおかしくない。
忙しいこともあって、早々に電話を切った。
それから2~3日したとき、又、電話がかかってきた。
《××××・・・・》、何を言っているのかわからない。
翌日、家にかけつけ、医者に行くのに同行した。
脳の腫瘍が原因の《失語症です》という診断だった。
長くはないと聞いたので、彼女の病院に会いに行った。
言葉は通じなかったが、気持ちは通じたように思う。
帰り際、握手したが、柔らかく温かい手であった。
それから2~3日に死亡の知らせが来た。
もらった花が今、満開である。
この花の正式名を教えてもらったが、忘れてしまった。
ただ、僕は勝手に《アツコの花》と名付けている。
彼女の名前の花は20鉢にも増え、
今、元気に花を咲かせている。


